この蓄電所案件、俺なら買わない|目利きの5つのチェックポイント
蓄電所の案件は、利回りの数字を横に並べても比べたことになりません。工事費負担金、連系予定時期、利回りの前提、土地の契約形態、接続方式。Fit Founder 代表が案件資料を開いたときに必ず見にいく5つの場所と、そこが埋まっていない資料をどう扱うかを書きます。

目次
利回りの数字を横に並べる前に
蓄電所の案件資料が手元に何枚か並んでいるとき、いちばんやってはいけないのは、利回りの数字を横に並べて高い順に見ることです。
同じ表面利回り8%でも、中身がまったく違うことがあります。前提の書いていない数字は、比較の材料にすらなりません。
このコラムでは、私が案件資料を開いたときに必ず見にいく5つの場所を挙げます。どれも地味です。ただ、ここが埋まっていない案件を、私は買いません。
売り手がこれを書くのは変だと思われるかもしれません。ただ、案件について質問をいただくとき、つまずく場所はだいたい同じです。それなら先に書いておこうと思いました。
チェック1:工事費負担金は確定しているか
まず見るのは、系統連系の工事費負担金です。
系統用蓄電池は、送電線につながって初めて事業になります。そのつなぎ込みの工事にかかる費用の一部を事業者側が負担するのが、工事費負担金です。
金額が小さければ気にしません。ところが、これが小さくない。仮に総事業費45.8億円(税抜)、特別高圧66kV連系という規模の案件を置いてみます。工事費負担金だけで8.2億円。総事業費の2割近くです。
しかも、この金額は案件によって確定していたりしていなかったりします。接続検討の回答を待っている段階なのか、系統連系申込は済んでいるが金額は概算なのか、正式回答が出て確定しているのか。どの段階かで、収支の確からしさが変わります。さきほどの8.2億円も「概算」と書かれていれば、それは動く数字です。
そして動くときは、たいてい増える方向に動きます。
見る場所は決まっています。案件詳細の「系統連系の状況」に、接続検討・系統連系申込・工事費負担金・接続契約がどこまで進んでいるかが書かれているはずです。書かれていない案件は、聞いてください。答えられないなら、それが答えです。
私のやり方を書いておくと、負担金が「概算」のままの案件は、資料の利回りを信用せず、金額が上振れした前提で自分で引き直します。引き直して成立しないなら、確定を待つか、降りる。それだけです。
チェック2:連系予定時期はいつで、根拠は何か
次が連系予定時期です。
蓄電所は、つながるまで1円も生みません。連系が半年遅れれば、収入が半年ぶん後ろにずれる。それだけの話ですが、利回りには効きます。
私が見るのは、時期そのものより根拠のほうです。想定スケジュールに「接続検討 回答受領」「工事費負担金 正式回答」といった実際に起きた出来事が並んでいて、そこから逆算して連系予定が置かれているのか。それとも希望が書いてあるだけなのか。
系統連系は相手のある手続きです。遅れること自体を責めても仕方がない。見るべきなのは、遅れたときにどうなるかが書いてあるかどうかです。
どこまでの遅れなら許容するのか、と聞かれることがあります。期間では答えを持っていません。遅れの理由が資料から追える案件は待てます。追えない案件は、待っている間ずっと不安なままです。
チェック3:その利回りは、何を入れて何を入れていない数字か
3つ目は利回りの前提。ここがいちばん差が出ます。
系統用蓄電池の収益は3つの市場から来ます。卸電力市場の価格差、容量市場の契約金額、需給調整市場の報酬。決まり方も時間軸もばらばらです。仕組みは系統用蓄電池の収益源となる3つの市場にまとめました。
だから「想定IRR 9.2%」と書いてあるとき、聞くことは決まっています。
- 3つの市場のうち、どれをどれだけ見込んだ数字か
- 表面か実質か。O&M費用や保険、税は入っているか
- 容量市場を見込んでいるなら、どの年度のどの価格を使ったか
- 蓄電池の劣化は織り込まれているか
とくに容量市場です。取引価格はエリアで大きく違いますし、年度ごとにも変わります。過去の高い年度の価格をそのまま引いてくれば、利回りはいくらでも良く見えます。ここは容量市場とは何かで仕組みごと確認してください。
前提が書いていない利回りは、比較の材料ではなく宣伝文句です。
チェック4:土地は誰のもので、どういう契約か
4つ目は土地。
蓄電所は20年前後の時間軸で回す事業です。その間ずっと、その場所に置いておける状態でなければ話になりません。
所有なのか、賃貸借なのか。賃貸借なら期間は何年で、更新はどうなるのか。たとえば事業用定期借地20年で組まれているなら、事業期間と土地の契約期間がほぼ同じということです。設備を長く回すつもりなら、後半で条件を組み直す話が必ず出てきます。
設備の話ではないので、案件資料では基本情報の欄に小さく書かれていることが多い項目です。ただ、あとから変えられない項目でもある。設備は入れ替えられますが、土地は動かせません。
所有と賃貸借のどちらが良いか、という聞き方はしません。見るのは、土地の契約の残り年数が事業計画と噛み合っているかどうかです。所有だから安心、借地だから不安、という単純な話にしてしまうと、いちばん大事な「何年その場所で回すつもりか」を考えずに済んでしまいます。
チェック5:接続方式と、出力が絞られる可能性
最後は接続方式です。
系統連系には、いつでも約束した出力で使える形と、系統が混み合っているときは出力を制限されることを前提に接続する形があるとされています。後者はノンファーム型接続と呼ばれます。空き容量を待たずに早くつなげる代わりに、混雑時の出力抑制を受け入れる、という考え方です。
蓄電池にとって、これは単純な不利とは限りません。混んでいるということは、その時間帯に電気が余っているということでもあり、蓄電池は充電側に回れるからです。ただし、放電したい時間に放電できるかどうかは事業計画の前提そのものです。
見るのは、案件資料に接続方式が書かれているかどうか。そして、出力が制限される可能性が収支に織り込まれているかどうか。書かれていないなら、その分だけ楽観的な計画だと思っておいたほうがいい。
私は、ノンファームだから外す、という判断はしません。外すのは、ノンファームであることを資料が言っていない案件です。
書いていないことを聞けるか
5つ挙げましたが、共通しているのは一つです。書いていないことを聞けるかどうか。
良い案件資料は、都合の悪いことも書いてあります。工事費負担金が未確定なら未確定と書き、接続方式に条件があるなら条件を書く。読み手に判断させる資料は、それだけで信用できます。
逆に、利回りだけが大きく書かれていて根拠がどこにも見当たらない資料は、読み手に判断させる気がありません。
私たちが GX LAB に系統用蓄電池の案件情報を載せるとき、系統連系の状況や事業スキームまで同じ様式で書いているのは、そのためです。比べられる形で出さなければ、選んでもらう意味がない。
最後に、タイトルの話をします。「俺なら買わない」と書きましたが、買うなと言いたいわけではありません。買わない案件を早く捨てられる人だけが、買っていい案件に時間を使えます。5つのチェックポイントは、そのための道具です。
資料を開いて、5つのうち書いていない場所を見つけたら、売り手に聞いてください。数字で答えが返ってくるなら、その案件は検討に値します。返ってこないなら、縁がなかったと思って次に行く。私はそうしています。
基礎から確認したい方は、系統用蓄電池とは何かから始まる連載をご覧ください。
※ 本文中の45.8億円・8.2億円・想定IRR 9.2%・66kV・定期借地20年は、説明のために置いた架空のモデルケースの数字です。実在の案件でも、利回りの約束でもありません。