系統用蓄電池の収益源|3つの市場(量・力・調整)の全体像
蓄電池は発電しないのに収益が出ます。値段がついているのが「電力量」だけではないからです。卸電力市場・容量市場・需給調整市場が買っているのは、量・力・調整という別々の価値。3つの違いと、蓄電池が他の電源と比べてどこで強いのかを見ていきます。

系統用蓄電池は発電しません。それなのに収益が出るのは、電気にまつわる価値が電力量だけではないからです。
3回目は、蓄電所の収益がどこから来るのかを俯瞰します。この回が連載の見取り図で、続く3回で市場をひとつずつ扱います。
この記事でわかること
- 電気が持つ3つの価値(量・力・調整)の違い
- それぞれに対応する市場の名前と、取引相手
- 電源の種類ごとに、どの市場へ出られるかの差
- 蓄電池が「組み合わせて稼ぐ」と言われる理由
電気が持つ3つの価値
Fit Founder の投資家向け資料では、系統用蓄電池が持つ価値が3つに分けられています。
量の価値(kWh)は、発電された電力量そのものです。取引する市場は卸電力市場で、主な取引主体は小売電気事業者。電気を売る・買うと聞いてまず思い浮かぶのはこれだと思います。
力の価値(kW)は、発電できる能力です。市場は容量市場、主な取引主体は電力広域的運営推進機関(広域機関)。実際に発電した量ではなく、必要になったときに出せる状態でいることに値段がつきます。
調整の価値(ΔkW)は、短時間に発電量を変化させられる能力です。市場は需給調整市場、主な取引主体は一般送配電事業者。出力を素早く上下できること自体が商品になります。
用語注意。ここでの「容量」は kW、つまり出力を指しています。蓄電池の仕様に出てくる「容量 79.9MWh」のような表記は kWh 系で、貯められる電力量のこと。同じ言葉が別のものを指していて、ここがいちばん間違えやすいところです。案件資料を読むときは単位まで見てください。
3つの市場の組み合わせ方
資料は「この3つを組み合わせて収益を最大化していく」と書いています。どれか1つを選ぶ話ではありません。
ただし、同じ設備の同じ時間帯を2つの市場へ同時に出すことはできません。ある時間帯を需給調整市場の待機に充てれば、その時間帯に卸電力市場で売る道は閉じます。
どの時間をどの市場に振り向けるか。それを決めるのが前回扱ったアグリゲーターの仕事です。蓄電池側からは限界出力・残存量・劣化性能といった情報が、市場側からはJEPX(日本卸電力取引所)と需給調整市場の価格トレンド予測が入ってきて、両方を突き合わせて運用が組まれます。
たとえば 79.9MWh・PCS 19.96MW の設備で想定IRR 9.2%、という数字が案件資料に出ていたとします。その9.2%は、この振り分けを一定の前提で置いたうえで積み上がった数字です。設備仕様が同じでも、前提の置き方と運用次第で結果は動きます。案件比較で運用体制が効いてくるのはそのためです。
電源ごとの出られる市場
資料には、電源の種類ごとにどの市場へ出られるかを比べた表があります。○が出られる、△が条件付き、×が出られない、という整理です。
- 水力(一般):卸電力市場○/容量市場△/需給調整市場△
- 揚水:卸電力市場△/容量市場○/需給調整市場○
- 火力(石炭):卸電力市場○/容量市場○/需給調整市場×
- 火力(LNG等):卸電力市場△/容量市場○/需給調整市場○
- 原子力:卸電力市場○/容量市場○/需給調整市場×
- 再エネ:卸電力市場○/容量市場×/需給調整市場×
- 系統用蓄電池:卸電力市場△/容量市場○/需給調整市場○
読みどころは2か所です。
まず、再エネは卸電力市場にしか出られません。太陽光や風力は発電量を決められないので、出せる状態でいると約束する容量市場にも、素早く出力を上下させる需給調整市場にも入れない。つくった電気を売るだけの一本足になります。
そして系統用蓄電池は、容量市場と需給調整市場の両方に出られます。表のうえで同じ並びになっているのは揚水発電とLNG火力。いずれも出力を調整できる電源です。電気をつくらないのに、調整できる電源と同じ枠に入っている、というのが蓄電池の位置です。
卸電力市場が△なのは、買った電気を貯めて売る形になるため、電力量そのものを供給する主力にはなりにくいから、と読めます。
次回からの3回
3つの市場は、値段のつき方も取引のタイミングも、求められる動きも違います。この連載では次のように分けて扱います。
- 第4回:卸電力市場とは何か。安く買って高く売る仕組み
- 第5回:容量市場とは何か。4年後の供給力を取引する仕組み
- 第6回:需給調整市場とは何か。蓄電池の本命とされる市場
ここまでの要点
- 電気の価値は量(kWh)・力(kW)・調整(ΔkW)に分かれ、それぞれ別の市場で、別の相手が払う
- 再エネは卸電力市場だけ。蓄電池は容量市場と需給調整市場にも出られる
- 3つは選ぶものではなく組み合わせるもの。時間の割り振りを決める運用が収益を左右する
案件資料では、この振り分けが「主たる収益源」として書かれていることがあります。GX LAB の系統用蓄電池の案件情報で、実際の案件がどの市場を主軸に置いているか見比べてみてください。
※ この記事は Fit Founder の投資家向け説明資料(2026年2月時点)をもとに書いています。市場の制度は変更されることがあります。本文中の 79.9MWh・PCS 19.96MW・IRR 9.2% は、説明のために置いた架空のモデルケースの数字で、実在の案件でも利回りの約束でもありません。
よくある質問
Q3つの市場は、どれか1つを選ぶのですか?
選ぶのではなく組み合わせます。Fit Founder の資料でも「3つを組み合わせて収益を最大化していく」と説明されています。ただし同じ時間帯の同じ設備を2つの市場へ同時に出すことはできないので、どの時間をどこに振り向けるかという運用の判断がそのまま成績になります。
Q「量」「力」「調整」は何が違うのですか?
買われている対象が違います。量(kWh)は実際に発電された電力量そのもの、力(kW)は将来発電できる能力、調整(ΔkW)は短時間で発電量を変化させられる能力です。量は電気そのものへの対価ですが、力と調整は「出せる状態でいてくれること」への対価なので、実際に放電しなくても価値が成立します。ここが直感に反するところだと思います。
Q蓄電池はどの市場で強いのですか?
資料の電源比較では、系統用蓄電池は卸電力市場が△、容量市場が○、需給調整市場が○。太陽光などの再エネが卸電力市場のみ○で残り2つは×なのに対し、蓄電池は容量と調整の両方に出られます。表のうえでは揚水発電と近い性格です。
Q3つの市場の取引相手はそれぞれ誰ですか?
卸電力市場の主な取引主体は小売電気事業者、容量市場は電力広域的運営推進機関、需給調整市場は一般送配電事業者です。同じ設備から出た価値でも、支払う相手はこのように分かれます。