卸電力市場とは?蓄電池が「安く買って高く売る」仕組み
卸電力市場は、日本卸電力取引所を通じて小売電気事業者へ電気を売る場です。系統用蓄電池は価格の安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電して差額を取ります。売電収入の考え方と、この市場だけに頼れない理由、そして案件資料の利回りで確認したい前提を扱います。

目次
系統用蓄電池の収益源で、いちばん直感的に分かるのが卸電力市場です。安いときに買って、高いときに売る。それだけです。
4回目はこの市場を扱います。3つの市場の関係は系統用蓄電池の収益源となる3つの市場をご覧ください。
この記事でわかること
- 卸電力市場で誰が誰に電気を売っているのか
- 蓄電池がこの市場で収益を出す仕組みと、その計算の考え方
- スポット市場と時間前市場の違い
- 蓄電池がこの市場だけに頼れない理由
卸電力市場で売られているもの
卸電力市場は、日本卸電力取引所(JEPX)を通じて電気を売買する場です。
取引されているのは、電気の3つの価値のうち量の価値(kWh)、つまり実際に発電された電力量そのもの。主な買い手は小売電気事業者で、家庭や企業へ電気を届けるためにここから調達します。
系統用蓄電池は、この市場の両側に立ちます。買い手として充電し、売り手として放電するからです。発電所なら売るだけですが、蓄電池は買って、貯めて、売る。往復します。
売電単価と買電単価の差
Fit Founder の投資家向け資料では、卸電力市場での売電収入がこの式で示されています。
(売電単価 − 買電単価)× 蓄電池容量 = 売電収入
市場価格が安い時間帯に電気を買って充電し、高い時間帯に放電して売る。その差額が収入になります。
太陽光の発電量が多い昼間は、市場に電気が余って価格が下がりやすい。逆に日が落ちて太陽光が止まり、家庭や事業所の需要が重なる夕方は上がりやすい。この時間差を蓄電池が埋めると、市場の価格差がそのまま収入に変わります。
ただ、この式はあくまで形です。式の「蓄電池容量」に入るのは、たとえばモデルケースとして置いている 79.9MWh のような数字ですが、その 79.9MWh をまるごと売れるわけではありません。充電した電気のすべてを放電できるわけではない(充放電のロス)、1日に何回充放電できるかで回転数が変わる、市場価格が読みどおりに動くとは限らない。案件の想定利回りを見るときは、この式のどこにどんな前提が置かれたのかを確認してください。前提の書いていない利回りは、比べようがありません。
スポット市場と時間前市場
資料では、卸電力市場の取引の場としてスポット市場と時間前市場の2つが挙げられています。
一般には、スポット市場は前日のうちに翌日の各時間帯の電気を取引する場、時間前市場は実際に電気を使う直前まで調整のために取引できる場として運用されているとされています。前者で大枠を決め、後者でズレを埋める、という関係です。
蓄電所の運用では、アグリゲーターがJEPXと需給調整市場の価格トレンドを予測しながら、どの時間帯にどれだけ充放電するかを組み立てていきます。
計画の提出とインバランス精算
市場で売買して終わり、ではありません。資料では、蓄電事業者をめぐって次のやり取りが示されています。
- 電力広域的運営推進機関(広域機関)に対して、発電計画等を提出する
- 市場で落札(約定)した内容が確定する
- 一般送配電事業者との間で発電量調整契約を結び、インバランス精算を行う
インバランスとは、提出した計画と実際の実績とのズレのことです。予定した時間に予定した量を放電できなければ、そのズレは精算の対象になります。
蓄電池は買った電気を貯めて売る設備なので、充電した分をどこまで計画どおり放電できるかが実務上の焦点になります。これらの手続きもアグリゲーターへの運用委託に含まれる範囲で、オーナーが自分で計画を提出することはありません。
この市場だけに頼れない理由
卸電力市場は分かりやすい代わりに、収益が市場価格の振れ幅そのものに左右されます。安い時間帯と高い時間帯の差が小さい日は、収益も小さくなります。
資料の電源比較でも、系統用蓄電池の卸電力市場での評価は△(条件付き)。容量市場と需給調整市場がいずれも○なのと比べると、この市場は主戦場ではない、という位置づけです。
理由は単純で、蓄電池は電気をつくらないからです。売れるのは買った電気だけ。しかも貯められる量には上限があります。電力量を供給する主力としては、発電所にかないません。
そのため実際の運用では、卸電力市場での差額収入を土台に置きつつ、将来の供給力に値段がつく容量市場や、短時間の調整力が取引される需給調整市場を重ねます。3つを併用するのは、収益を積み増すためだけではありません。ひとつの市場の値動きで事業全体が揺れないようにするためでもあります。
ここまでの要点
- 卸電力市場は電力量(kWh)そのものを取引する場。買い手の中心は小売電気事業者
- 蓄電池は安い時間帯に充電し、高い時間帯に放電して差額を取る
- 資料の式は(売電単価 − 買電単価)× 蓄電池容量。充放電ロスと稼働回数の前提を必ず確認する
- この市場での評価は△。収益は3つの市場の組み合わせで見る
案件ごとに主たる収益源の置き方は違います。GX LAB の系統用蓄電池の案件情報では、事業スキームの欄に想定する運用パターンが書かれている案件もあるので、この記事と照らしながら読んでみてください。
※ この記事は Fit Founder の投資家向け説明資料(2026年2月時点)をもとに書いています。市場価格は日々変動し、制度は変更されることがあります。本文中の 79.9MWh は、説明のために置いた架空のモデルケースの数字で、実在の案件ではありません。
よくある質問
Q卸電力市場での売電収入はどう計算しますか?
Fit Founder の資料では「(売電単価 − 買電単価)× 蓄電池容量 = 売電収入」という式が示されています。安いときに買って高いときに売る差額が収入になる、という構造です。ただしこれは形を表した式で、実際には充放電のロス、1日に何回動かせるか、市場価格が読みどおりに動くかが効いてきます。
QJEPXとは何ですか?
日本卸電力取引所(Japan Electric Power Exchange)の略称です。卸電力市場の取引はこの取引所を通じて行われ、アグリゲーターは価格トレンドの予測に JEPX の情報を使います。
Q蓄電池は卸電力市場で主力になれますか?
なりにくい、というのが資料の見立てです。電源比較で系統用蓄電池の卸電力市場の評価は△(条件付き)。自分で発電せず、買った電気を貯めて売る形になるので、電力量そのものを供給する主力にはなれません。容量市場・需給調整市場はいずれも○で、収益はこの3つの組み合わせで考えます。
Q価格差が小さい日は、収益が出ないのですか?
差額で稼ぐ仕組みである以上、安い時間帯と高い時間帯の差が縮めば収益も縮みます。だから卸電力市場だけに寄せず、容量市場や需給調整市場と組み合わせる設計になっています。ひとつの市場の値動きに事業全体が振り回されないようにするための組み合わせでもあります。