成長志向型カーボンプライシングとは?20兆円の先行投資と排出量取引・化石燃料賦課金のつながり
成長志向型カーボンプライシングは、GX経済移行債による20兆円規模の先行投資支援と、排出量取引制度・化石燃料賦課金などの制度を組み合わせて、企業のGX投資を促す国の仕組みです。全体像と時間軸、企業への関わりを整理しました。

目次
「カーボンプライシング」と聞くと、CO2を出すほどお金がかかる仕組み、という印象を持つ人が多いかもしれません。日本が進めているのは、それに投資の支援を組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング構想」です。この記事では、GX LAB 編集部が、GX2040ビジョンの6章をもとに、その全体像と時間軸を整理します。
ビジョン全体の流れは、GX2040ビジョンの8つの柱で解説しています。
この記事でわかること
- 成長志向型カーボンプライシング構想の基本的な考え方
- 先行投資支援と、3つの制度の時間軸
- 排出量取引制度の主な仕組み
- 化石燃料賦課金の考え方と、企業への関わり
基本的な考え方:「支援」と「規制・制度」をセットで
カーボンプライシングは、CO2の排出に値段をつけて、排出を減らす行動を促す仕組みです。
GX2040ビジョンは、10年間で150兆円を超える官民の GX 投資を実現するには、企業が GX 投資の収益性を中長期で見通せるようにすることが必要だとしています。そのため、GX 投資を後押しする支援策と、規制・制度の措置を一体で、長期・複数年度にわたって国が約束する形で講じるとしています。これが「成長志向型」と呼ばれる理由です。
制度を段階的に入れていくことで、炭素の価格が中長期で少しずつ上がっていく見通しが示されます。その結果、早く GX 投資に取り組んだ企業ほど評価される事業環境になる、という考え方です。
先行投資支援と3つの制度の時間軸
ビジョンと、2026年8月時点の国の進捗資料をもとに、時間軸を並べると次のとおりです。
- 2023年度から:GX 経済移行債を発行し、10年間で20兆円規模の先行投資支援を行う
- 2026年度から:排出量取引制度(GX-ETS)が本格稼働。2026年4月に始まり、排出枠の割当て・取引は2027年度から
- 2028年度から:化石燃料賦課金を導入
- 2033年度から:発電事業者を対象に、排出枠の有償オークションを導入
ビジョンによると、化石燃料賦課金と有償オークションは、GX 推進法に基づき、エネルギーに関わる負担の総額を中長期的に減らしていく中で導入するとされています。国の資料では、GX 経済移行債は2050年度までに償還するとされ、化石燃料賦課金はその償還財源でもあります。
先行投資支援が、どんな補助金の形で企業に届いているかは、企業向けの脱炭素補助金の全体像で整理しています。
排出量取引制度の主な仕組み
対象になる企業
CO2の直接排出量が10万トン以上の企業は、業種を問わず参加が義務になります。2023年度に始まった自主参加型の「GX リーグ」を土台に、公平性と実効性を高めた形です。
対象企業の主な義務
- 毎年度、自社の直接排出量を算定し、登録を受けた第三者機関の検証を受けて国に報告する
- 報告した排出量と同じ量の排出枠を、毎年度「償却」(国に納める)する
- 中長期の排出削減目標などを書いた「移行計画」を提出し、国がこれを公表する
排出枠の割当てと取引
排出枠は、業種の特性などを考慮した政府の指針に基づき、無償で割り当てられます。業種別のベンチマーク(排出原単位の基準)を基本とし、ベンチマークが作りにくい分野では、過去の排出量に一定の削減率をかける方法も使います。
実際の排出量が割当量を上回った企業は、削減が進んで排出枠が余った企業などから、取引で調達します。取引を通じて炭素の価格が形成され、それが投資判断の指標になることが期待されています。
価格の上限と下限
炭素価格の見通しを立てやすくするため、排出枠の価格には上限と下限が設けられます。償却の義務を果たさなかった企業には、上限価格に一定の倍率をかけた水準の負担金の支払いが命じられます。
排出量の算定には、J-クレジットや JCM クレジットを使うことができるとされています。
化石燃料賦課金の考え方
化石燃料賦課金は、化石燃料を使うことに伴うコストを社会全体で広く負担することで、幅広い対象に GX への動機づけをする、炭素排出に対する一律のカーボンプライシングです。石油石炭税と同じ対象にかけるとされ、減免のあり方も石油石炭税と同じ扱いにする方向で、詳細な設計が検討されています。
企業にとっての意味
ここからは GX LAB 編集部の見立てです。
排出量取引制度で参加が義務になるのは、直接排出量が10万トン以上の企業に限られます。一方、化石燃料賦課金は化石燃料にかかる仕組みなので、燃料や電気などの価格を通じて、より広い企業に影響が及ぶ可能性があります。
ビジョンは、排出量取引の負担が中小企業に不当に押し付けられないよう、政府が取引を確認し、是正に取り組むとしています。中堅・中小企業の立場からの整理は、中堅・中小企業のGXと国の支援の解説をご覧ください。また、電気の環境価値を扱う仕組みとして、非化石証書の解説も参考になります。
まとめ
- 成長志向型カーボンプライシングは、20兆円規模の先行投資支援と、規制・制度を組み合わせた仕組み
- 排出量取引制度は2026年度から本格稼働し、割当て・取引は2027年度から
- 化石燃料賦課金は2028年度から、発電事業者の有償オークションは2033年度から導入
- 炭素価格が少しずつ上がる見通しを示し、早く GX 投資をした企業が評価される環境をつくる
出典・参考
- 内閣官房「GX2040ビジョン~脱炭素成長型経済構造移行推進戦略 改訂~」(2025年2月)
- 内閣官房 GX 実行推進室「我が国のGX政策・GX投資の進捗(参考資料)」(第17回 GX 実行会議 資料2、2026年8月26日)
※ 本記事は編集部が投稿した当時の情報に基づきます。制度の内容は変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式ページをご確認ください。
よくある質問
Q成長志向型カーボンプライシングの「成長志向型」とはどういう意味ですか?
CO2の排出に値段をつける制度だけでなく、GX経済移行債による20兆円規模の先行投資支援を組み合わせて、企業のGX投資を後押しすることを指しています。炭素価格が少しずつ上がる見通しを示すことで、早くGX投資をした企業が評価される環境をつくるねらいです。
Q排出量取引制度はいつから始まりましたか?
GX2040ビジョンでは2026年度から本格稼働するとしています。2026年8月時点の国の資料では、2026年4月にGX-ETSが始まり、排出枠の割当て・取引は2027年度からとされています。
Q化石燃料賦課金は誰が負担するのですか?
ビジョンでは、石油石炭税と同じ対象にかけるとされ、2028年度から導入されます。化石燃料を使うことに伴うコストを社会全体で広く負担するしくみと説明されています。減免のあり方は石油石炭税と同じ扱いにする方向で、詳しい設計が検討されています。