バイウィル、岡山県鏡野町の森林J-クレジット創出・活用を支援
一度は断念しかけた岡山県鏡野町の森林J-クレジット。初期費用のいらない成果報酬型の支援と、地元企業との8年間の長期売買で、手間と「売れ残り」の壁をどう越えたのかを解説します。

目次
岡山県苫田郡鏡野町が町の森林でつくったJ-クレジットが、2026年2月に国の認証を受け、地元企業の津山ガス株式会社が8年間にわたって購入することになりました。手続きを支えたのは株式会社バイウィルで、同社が9月18日にこの取り組みを発表し、町の担当者へのインタビュー記事も公開しています。
GX LABではこれまで、糸魚川市や安芸高田市が、バイウィルとJ-クレジットの連携協定を結んだ動きを紹介してきました(糸魚川市×バイウィルの連携協定、安芸高田市×アイリスオーヤマ×バイウィルの連携協定)。どちらも「これからクレジットをつくる」段階です。
鏡野町は、その一歩先にいます。クレジットをつくり、認証を受け、買い手まで決まっている。この記事では、自治体がJ-クレジットに取り組むときにぶつかる壁を、鏡野町がどう越えたのかを見ていきます。
取り組みのポイント
- 自治体:岡山県苫田郡鏡野町(町長:瀬島栄史氏)。町の面積の約8割が森林
- 支援:株式会社バイウィル(手続きから販売までを支援)
- きっかけ:町と包括連携協定を結んでいる株式会社中国銀行からの紹介
- クレジットの種類:町が管理する森林から生まれる、森林由来のJ-クレジット
- 成果:2026年2月にJ-クレジットの登録・認証。地元企業の津山ガス株式会社と8年間の長期売買
事例紹介記事によると、流れは次のとおりです。
- 2024年7月:鏡野町、作州かがみの森林組合、バイウィルの3者が、中国銀行の紹介で森林J-クレジットの創出に着手
- 2025年9月:津山ガスとの8年間の継続的な取引に向けた連携協定を結び、町で感謝状の贈呈式
- 2026年2月:森林クレジットの創出が国から正式に認証
一度は断念しかけた理由
森林の多い自治体にとって、J-クレジットは相性のよい仕組みに見えます。それでも鏡野町は、一度は取り組みを先送りにしていました。
鏡野町は町域の約8割を森林が占めており、森林管理コストの増大に加え、申請手続きにかかわる行政のリソース不足や創出後の売れ残りのリスクから、J-クレジット創出の取組を断念しかけていました。 >出典:株式会社バイウィル(https://www.bywill.co.jp/news/2026-09-18-2)
ここに挙がっている壁は、鏡野町だけのものではありません。整理すると、次の3つです。
- 人手の壁:登録申請、審査機関とのやり取り、モニタリングなど、専門的な手続きを担える職員がいない
- 予算の壁:成果が見えない取り組みに、前もって予算をつけて議会の承認を得るのが難しい
- 販売の壁:苦労してつくっても、買い手が見つからずに売れ残るおそれがある
事例紹介記事では、町の担当者が、ほかの自治体でつくったクレジットが売れずに残っている例を聞いていたと振り返っています。つくる手間より先に、「売れるのか」という不安が、自治体の足を止めていたことがわかります。
壁を越えた2つの仕組み
初期費用のいらない「成果報酬型」
鏡野町が踏み出せた大きな理由は、支援の費用の払い方でした。前もって費用を払うのではなく、クレジットがつくれて売れたときに、その分の手数料を払う形です。
「何もしなければ何も生まれないが、お願いすれば1万円でも新しい収入(財源)が入ってくる」というロジックは非常に説明がしやすく、町長をはじめ役場内でも一気に納得感が広がりました。 >出典:株式会社バイウィル(https://www.bywill.co.jp/works/kagamino)
自治体の予算は、原則として前もって金額を決め、議会で認めてもらう必要があります。成果が読めない新しい取り組みほど、この段階で止まりがちです。「先にお金が出ていかない」形にしたことで、役場の中で説明しやすくなり、予算の壁が低くなりました。
手続きから販売までの一貫した支援
もう一つは、手続きから販売までを一つの事業者がまとめて支えたことです。
初期費用不要の成果報酬型スキームと一気通貫の伴走サポートにより課題を解決に導き、2026年2月にはJ-クレジットの登録・認証と、地場企業である津山ガス株式会社への8年間におよぶ長期売買契約締結を実現しました。 >出典:株式会社バイウィル(https://www.bywill.co.jp/news/2026-09-18-2)
事例紹介記事からは、現場の手間の大きさも見えてきます。
- 鏡野町は平成の大合併で4町村が一つになった町で、過去の森林整備の記録が町内4か所に分かれて保管されていた
- 認証に必要な書類を探し出すだけで約1か月、紙の資料をデータにするのに1〜2週間かかった
- 審査機関とのやり取りは専門用語が多く、担当者は町だけで対応するのは難しかったと振り返っている
資料集めは町が担い、専門的なやり取りや買い手探しは支援事業者が担う。役割を分けたことで、通常の行政業務を止めずに認証までたどり着けました。
8年間の長期売買がもたらすもの
今回の取り組みで特に大きいのは、買い手が地元企業で、しかも8年間という長い契約になった点です。
- 町にとって:何年先まで収入が入るかの見通しが立つ。事例紹介記事によると、売却収入は町有林の間伐や保育(森林の手入れ)などの財源に充てる予定
- 地元企業にとって:地域の森林を守る取り組みを、自社の脱炭素の取り組みとして長く支えられる
- 地域にとって:森林が生んだ価値が、地元企業を通じて森林の整備に戻る。お金が地域の外に出ていかない
これまで一般財源や森林環境譲与税などでまかなっていた森林整備の費用の一部を、森林そのものが生んだ収入でまかなえるようになります。維持するだけで手一杯だった森林が、自ら整備の費用を生み出す資源に変わりつつあります。
協定の段階にある自治体との違い
糸魚川市や安芸高田市と比べると、鏡野町の事例の位置づけがはっきりします。
共通点
- バイウィルが、登録・申請から販売までを支援している
- つくったクレジットを地域の中で使う「地産地消」を目指している
違い
- 糸魚川市・安芸高田市は、市のLED設備を起点にした省エネ由来のクレジットを、これから検討する段階
- 鏡野町は、町の森林から生まれる吸収由来のクレジットで、すでに認証を受け、買い手も決まっている
協定を結んだ自治体がこの先どう進むのかを考えるうえで、鏡野町は具体的な見本になります。
ほかの自治体が参考にできること
森林資源はあるのに活かしきれていない、J-クレジットに関心はあるが手間や費用、販売が不安で踏み出せない。そうした自治体にとって、鏡野町の事例から次の点が読み取れます。
- 費用の払い方を確かめる:成果報酬型のように、前もって予算を組まなくても始められる形があるか、支援事業者に確認する
- 販売まで見据えて始める:つくる手続きだけでなく、誰に売るかまで一緒に考えてくれる相手を選ぶ
- 地元の金融機関とつながる:鏡野町では、包括連携協定を結んでいた地元銀行の紹介がきっかけになった
- 過去の記録を早めに探しておく:森林の整備記録や図面などの書類集めには時間がかかる。合併を経た自治体では特に
まとめ
岡山県鏡野町の森林J-クレジットは、一度は断念しかけた取り組みが、仕組みの工夫で形になった事例です。
- 壁は「人手」「予算」「販売」の3つ。どれも多くの自治体に共通する
- 初期費用のいらない成果報酬型の支援で、予算の壁を越えた
- 手続きから販売までを支援事業者が一貫して担い、2026年2月に認証を受けた
- 地元の津山ガスとの8年間の長期売買で、森林の整備に回せる収入の見通しが立った
自治体が「環境価値のつくり手」になる動きは、協定を結ぶ段階から、実際にクレジットを売って地域に還元する段階へと進み始めています。
出典・参考
- 株式会社バイウィル「バイウィル、岡山県鏡野町の森林J-クレジット創出・活用を支援」(2026年9月18日公表)
- 株式会社バイウィル「『作ったけれど売れない』懸念を払拭。鏡野町が成果報酬型スキームで挑んだ森林J-クレジット創出と、地元企業への8年長期還元」(事例紹介記事)
- 鏡野町「公式サイト」