バイウィル、秋田県由利本荘市の森林J-クレジット、プロジェクトが完了
秋田県由利本荘市、三菱食品、バイウィルが進める森林J-クレジットのプロジェクトが、国の制度に正式登録されました。「登録」でなにが決まり、クレジット発行までに何が残るのか。ほかの自治体の事例と比べながら解説します。

目次
秋田県由利本荘市とバイウィルが進めてきた森林J-クレジットのプロジェクトが、第69回J-クレジット制度認証委員会で、国の制度に正式に登録されました。2026年9月4日にバイウィルが発表しています。
このプロジェクトには、食品卸の三菱食品株式会社も加わっています。市・三菱食品・バイウィルの3者は、2025年6月にJ-クレジットの活用に関する連携協定を結んでおり、今回の登録は、その協定から1年あまりで迎えた節目です。
ただし「登録」は、クレジットが手に入ったことを意味しません。この記事では、登録で何が決まったのか、発行までに何が残っているのかを整理し、ほかの自治体の事例と比べながら由利本荘市の現在地を見ていきます。
プロジェクトのポイント
- 自治体:秋田県由利本荘市(市長:湊貴信氏)。市の総面積の約75%が森林
- 連携先:三菱食品株式会社、株式会社バイウィル
- 対象:市が所有・管理する森林
- 方法論:森林経営活動(適切な森林管理によるCO₂吸収量の増加を算定する方法)
- プロジェクトの種類:通常型
- 面積:422.76ha
- 吸収見込み量:1万9,200t-CO₂(認証対象期間:2025年4月1日〜2033年3月31日)
- クレジットの使い道:三菱食品が将来的に購入・活用することを検討
認証対象期間は8年間です。単純に年数で割ると、1年あたりおよそ2,400t-CO₂の吸収を見込んでいる計算になります。ただし、これはあくまで見込みです。実際に発行されるクレジットの量は、今後のモニタリングと国の認証で決まります。
なぜ森林にJ-クレジットなのか
発表では、森林が置かれている状況が次のように説明されています。
日本の森林は、木材価格の低迷や担い手不足などにより、維持管理の負担が大きく、森林を適切に管理していても、その価値を十分に収益へ結び付けにくい状況が続いています。こうした課題に対し、森林が吸収したCO2を「環境価値」として可視化・収益化できる仕組みが、J-クレジット制度です。 >出典:株式会社バイウィル(https://www.bywill.co.jp/news/2026-09-04)
間伐などの手入れにはお金がかかりますが、木材の値段だけでは費用をまかないきれない。これが多くの森林の現状です。J-クレジットを使えば、手入れによって増えたCO₂の吸収量そのものを、売ることのできる価値に変えられます。
木材を売る収入に、クレジットを売る収入が加わる。その収入を次の森林整備に回せれば、手入れを続けやすくなります。森林の多い自治体ほど、この仕組みを活かせる余地があります。
「登録」で決まったこと、まだ決まっていないこと
J-クレジットは、おおまかに次の順で進みます。
- プロジェクトの計画をつくり、国の制度に登録する
- 森林の手入れを続けながら、CO₂の吸収量をモニタリング(記録・算定)する
- 記録した吸収量について、第三者の検証と国の認証を受ける
- 認証された量がクレジットとして発行され、売ったり使ったりできるようになる
今回、由利本荘市が終えたのは1番目の段階です。
今回のプロジェクト登録により、由利本荘市が所有・管理する森林は、J-クレジット創出に向けた対象森林として正式に登録されました。今後は、適切な森林管理を継続しながらCO2吸収量のモニタリング・算定を行い、国による認証を経てJ-クレジットの発行を目指します。 >出典:株式会社バイウィル(https://www.bywill.co.jp/news/2026-09-04)
登録によって、「この森林を、この方法で、この期間、クレジットの対象にする」ことが国に認められました。一方で、実際に何トン分のクレジットが発行されるか、いくらで誰に売れるかは、これからの段階で決まります。
バイウィルは、登録申請から審査への対応、モニタリング、販売戦略の立案と販売までを支援するとしています。市にとって手間の大きい実務を、専門の事業者が引き受ける形です。
人のつながりから始まったプロジェクト
このプロジェクトのきっかけは、三菱食品と市の人のつながりでした。
三菱食品の佐藤常務執行役員が由利本荘市出身で、『由利本荘市ふるさと応援大使』を務めていることをきっかけに、両者が持続可能な地域社会の実現に向けて取り組みを模索する中、同社とのご縁を通じて、由利本荘市とバイウィルとの連携へとつながりました。 >出典:株式会社バイウィル(https://www.bywill.co.jp/news/2026-09-04)
自治体がJ-クレジットに取り組むとき、大きな不安の一つが「つくっても買い手がいるのか」です。由利本荘市の場合は、最初から将来の購入を検討する企業がプロジェクトに加わっています。出身地とのつながりを持つ企業が、脱炭素の取り組みを通じてふるさとを支える。買い手探しの一つの形として参考になります。
三菱食品にとっては、2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みの一つです。自治体と連携して森林クレジットの創出を支えることを、以前から検討していたとされています。
ほかの自治体の事例と比べると
GX LABでは、バイウィルが関わる自治体の取り組みをいくつか紹介してきました。進み具合で並べると、由利本荘市の位置がわかります。
- 協定を結び、これから検討する段階:新潟県糸魚川市、広島県安芸高田市。市のLED設備を起点に、省エネ由来のクレジットを検討中(糸魚川市の連携協定、安芸高田市の連携協定)
- 登録を終え、発行を目指す段階:秋田県由利本荘市(今回)。森林由来のクレジットで、面積と吸収見込み量が決まった
- 認証を受け、買い手も決まった段階:岡山県鏡野町。森林由来のクレジットが2026年2月に認証され、地元企業と8年間の長期売買(鏡野町の森林J-クレジット)
同じ森林由来の鏡野町と比べると、買い手の性格に違いがあります。
- 鏡野町:地元のガス会社が、8年間の長期契約で購入
- 由利本荘市:市の出身者とのつながりを持つ全国規模の企業が、将来的な購入を検討
地元で買い支える形と、ふるさととのつながりを持つ企業が買い支える形。どちらも「地域の森林の価値を、地域とつながりのある企業が支える」という点では共通しています。
ほかの自治体が参考にできること
- 自分の町の「今の段階」を知る:協定、登録、モニタリング、認証、発行と、J-クレジットには段階がある。どこまで進めば何が手に入るのかを、最初に把握しておく
- 買い手候補を早めに探す:由利本荘市のように、出身者や、ゆかりのある企業とのつながりが入口になることもある
- 見込み量と実際の発行量を分けて考える:登録時の吸収見込み量は目安。予算や計画を立てるときは、実際の発行量が変わりうる前提で考える
- 実務の担い手を決めておく:登録後も、8年間にわたるモニタリングなどの実務が続く。庁内で担うのか、支援事業者に任せるのかを決めておく
まとめ
秋田県由利本荘市の森林J-クレジットは、協定から1年あまりで、国の制度への登録を終えました。
- 対象は市が所有・管理する422.76haの森林。2033年3月までの8年間で約1万9,200t-CO₂の吸収を見込む
- 登録は出発点。今後、モニタリングと国の認証を経て、クレジットの発行を目指す
- 市の出身者とのつながりをきっかけに、三菱食品が将来の購入を検討している
- クレジットの収入を森林整備や林業の継承に回し、手入れを続けられる森林経営につなげることが期待されている
協定の段階にある自治体と、すでに認証・販売まで進んだ自治体。その間にある由利本荘市が、発行と販売までどう進むのか、引き続き注目です。
出典・参考・画像参照元
- 株式会社バイウィル「秋田県由利本荘市とバイウィルの共同プロジェクト、J-クレジット制度におけるプロジェクト登録が完了」(2026年9月4日公表)
- 株式会社バイウィル「秋田県由利本荘市、三菱食品、バイウィルがJ-クレジットを活用したカーボンニュートラルに関する連携協定を締結」
- 由利本荘市「公式サイト」