主要国の脱炭素目標と動向|米・EU・英・独・仏・中・韓など10か国・地域を比べる
エネルギー白書2025は、主要10か国・地域のカーボンニュートラルに向けた目標と動向をまとめています。米国の政策転換、EUの2040年目標案、英国の石炭火力全廃、ドイツの2045年CN、中国の石炭火力拡大など、各国の削減目標と炭素価格の仕組みを比べました。

目次
日本の削減目標は、世界の中でどのような位置にあるのでしょうか。エネルギー白書2025は、第1部第3章で、主要10か国・地域のカーボンニュートラルに向けた動向と、その背景をまとめています。この記事では、GX LAB 編集部が、各国の削減目標と主な動き、炭素に価格をつける仕組みを比べます。
なお、白書の各国の内容は、経済産業省が独自に調査・確認したもので、各国政府などの公式な承認・確認を受けたものではないと注記されています。
白書全体の流れは、エネルギー白書2025のポイントで解説しています。
この記事でわかること
- 主要国・地域の温室効果ガス削減目標
- 各国のエネルギー政策の主な動き
- 排出量取引制度や炭素税など、炭素価格の仕組み
各国の削減目標
白書に示された各国の中期的な目標は次のとおりです(基準年は国によって異なります)。
- 日本:2013年度比で2030年度46%、2035年度60%、2040年度73%削減
- 米国:前政権は2005年比で2035年に61〜66%削減を掲げていたが、トランプ政権は就任直後にパリ協定からの脱退を表明
- EU:1990年比で2030年に少なくとも55%削減。欧州委員会は2040年に90%削減を提案し、議論中
- 英国:1990年比で2035年に少なくとも81%削減
- ドイツ:EU 全体より早い2045年のカーボンニュートラルを宣言し、1990年比で2040年に少なくとも88%削減
- フランス:1990年比で2030年に50%削減
- イタリア:EU の目標をふまえ、1990年比で2030年に少なくとも55%削減
- カナダ:2005年比で2035年に45〜50%削減
- 韓国:2018年比で2030年に40%削減
- 中国:2060年のカーボンニュートラルを掲げ、2030年までに CO2排出量のピークを迎えられるよう努めるとしている
日本の新しい目標の詳しい内容は、地球温暖化対策計画の全体像で解説しています。
各国の主な動き
米国:政策の大きな転換
前政権は「インフレ削減法」でクリーンエネルギー政策を進めていましたが、トランプ政権は関連支出の一時停止や新たな風力発電プロジェクトの停止など、政策を大きく転換しました。一方、原子力ではボーグル原子力発電所3・4号機が約30年ぶりの新設として稼働し、トランプ政権も原子力は促進する方針がうかがえるとしています。国産のエネルギー資源の開発を進める方針です。
EU:クリーン産業の支援と炭素価格の強化
最終エネルギー消費における再エネの割合を2030年に少なくとも42.5%にする目標を掲げ、「ネットゼロ産業法」で小型モジュール炉(SMR)などを戦略的な技術に位置づけました。2030年までに年間2,000万トンのグリーン水素の域内供給、年5,000万トンの CO2貯留容量の開発などを目指しています。
英国:石炭火力の全廃
2024年9月に石炭火力発電所を全廃しました。太陽光を2035年までに70GW に増やす、原子力を2030年までに最大8基新設するなど、再エネと原子力の両方を活用する方針です。
ドイツ・フランス・イタリア
- ドイツ:再エネをエネルギー政策の中心に置き、遅くとも2038年までに石炭火力を廃止する方針。2002年に脱原子力を法制化し、段階的に閉鎖した
- フランス:省エネを進めつつ、再エネの加速と原子力を推進。2027年に石炭火力を廃止する方針
- イタリア:再エネを拡大するとともに、現在は発電量ゼロの原子力の再開に向けて、法令などを2027年中に整備する方針
中国・韓国・カナダ
- 中国:増える電力需要をまかなうため、再エネや原子力に加え、石炭火力の利用も拡大している
- 韓国:2017年の脱原子力の方針を2022年に撤回し、再エネと原子力をバランスよく広げる方針
- カナダ:水力発電の割合が大きく、再エネや原子力に加えて水素や CCS も推進する方針
炭素に価格をつける仕組み
白書では、各国の炭素価格の仕組みも紹介されています。
- EU:排出量取引制度(EU-ETS)を強化(対象部門の拡大、無償割当の削減など)。2026年1月に炭素国境調整措置(CBAM)の本格適用を予定
- 英国:排出量取引制度を2005年から運用。発電事業者を対象とした炭素税も2013年から運用。独立した諮問機関が5年ごとの排出量の上限(カーボンバジェット)を設定
- ドイツ:EU-ETS に加え、運輸部門などを対象にした独自の排出量取引制度を2021年から運用
- フランス:EU-ETS に加え、燃料に対する炭素税を2014年から運用
- 韓国:2015年から排出量取引制度を導入し、CO2排出量の7割程度をカバー
- 中国:2021年から排出量取引制度を運用。世界最大規模
- カナダ:2019年に化石燃料の販売事業者を対象に炭素税を導入したが、2025年3月、国民負担を減らすため税率をゼロに引き下げることを決めた
- 米国:一部の州で排出量取引制度を導入
日本の成長志向型カーボンプライシングの仕組みは、GX LAB の「GX2040ビジョン」シリーズで解説しています。
企業にとっての意味
ここからは GX LAB 編集部の見立てです。
各国は目標を維持しつつも、政策の中身は国によって大きく違い、米国のように政権によって大きく変わる国もあります。一方で、EU の CBAM のように、輸入品にも炭素の負担を求める仕組みが始まろうとしています。海外と取引がある企業は、取引先の国の制度の動きを定期的に確かめておくことが大切です。資金面での移行の考え方は、トランジション・ファイナンスの解説で取り上げています。
まとめ
- 日本は2040年度73%削減、EU は2040年90%削減を提案中、ドイツは2045年 CN を宣言
- 米国はトランプ政権でパリ協定からの脱退を表明し、政策を大きく転換した
- 英国は2024年9月に石炭火力を全廃し、中国は石炭火力の利用を拡大している
- 炭素価格の仕組みは各国で異なり、EU は2026年1月に CBAM の本格適用を予定
出典・参考
- 資源エネルギー庁「エネルギー白書2025について(令和6年度エネルギーに関する年次報告)」(概要版)
※ 本記事は編集部が投稿した当時の情報に基づきます。制度の内容は変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式ページをご確認ください。
よくある質問
Q主要国の削減目標はどのくらいですか?
白書によると、EUは1990年比で2030年に少なくとも55%削減し、2040年に90%削減を提案中です。英国は1990年比で2035年に少なくとも81%削減、ドイツは2045年のカーボンニュートラルを宣言しています。日本は2013年度比で2040年度に73%削減を目指しています。
Q米国の脱炭素政策はどうなっていますか?
前政権はインフレ削減法でクリーンエネルギー政策を進めていましたが、トランプ政権は就任直後にパリ協定からの脱退を表明し、政策を大きく転換しました。一方で原子力は促進する方針がうかがえるとされています。
QCBAMとは何ですか?
EUの炭素国境調整措置のことで、域外から輸入される製品の炭素排出に応じた負担を求める仕組みです。白書によると、EUは2026年1月に本格適用を予定しています。