GX LAB
ナレッジ

トランジション・ファイナンスとは?段階的な脱炭素を支える資金と、国が発行するトランジション・ボンド

トランジション・ファイナンスは、すぐに脱炭素化できない産業の段階的な移行を支える資金調達の考え方です。経済産業省の資料をもとに、必要とされる理由、国が世界で初めて発行したトランジション・ボンドの仕組み、アジアでの重要性と国際的な広がりを整理しました。

公開日
Share
赤い計器と古い配管が並ぶ暗い地下通路の先に、屋根一面の太陽光パネルと蓄電池コンテナがある明るいクリーンな工場が見える。天井は六角形パネル
目次

脱炭素の資金調達というと、再エネなど「すでにグリーンなもの」に向けたグリーン・ファイナンスがよく知られています。一方、日本が国際的に広めてきたのが、すぐには脱炭素化できない産業の「段階的な移行」を支えるトランジション・ファイナンスです。この記事では、GX LAB 編集部が、経済産業省の資料「我が国のグリーントランスフォーメーション政策」をもとに、その考え方と、国が発行するトランジション・ボンドの仕組みを整理します。

白書と GX 政策の全体像は、エネルギー白書2025のポイントで解説しています。

この記事でわかること

  • トランジション・ファイナンスが必要とされる理由
  • 国が発行する「クライメート・トランジション・ボンド」の仕組み
  • 資金の使い道(適格な事業)の分類
  • アジアでの重要性と、国際的な広がり

なぜトランジション・ファイナンスが必要なのか

資料は、カーボンニュートラルの実現には、電化と電源の非化石化が重要だとしつつ、次のように電化などが難しい排出があると指摘しています。

  • 高温の熱の需要
  • 製鉄での還元(鉄鉱石から酸素を取り除く工程)
  • 石油化学の原料(ナフサ)

こうした分野では、水素還元製鉄のような新技術の開発や、大幅な削減・段階的な削減を進める取り組みが必要です。トランジション・ファイナンスは、こうした取り組みも対象にする資金調達の考え方で、資料は国内外で推進していく必要があるとしています。

また、国民負担を抑えるために既存の設備を最大限活用しながら、段階的に移行していくことも必要だとしています。

国が発行するトランジション・ボンド

クライメート・トランジション利付国債

GX 経済移行債の一部は、2024年2月から、国によるトランジション・ボンドとして、個別の銘柄「クライメート・トランジション利付国債」の形で発行されています。国際資本市場協会などの国際標準に準拠していることについて、第三者評価機関の認証(SPO)を得て発行される、世界初の国によるトランジション・ボンドです(GX2040ビジョンより)。

資料は、国がトランジション・ボンドを発行することのねらいを次のように示しています。

  • カーボンニュートラルに役立つ資金の使い道を明確にする
  • トランジション・ファイナンスの市場を広げる
  • 民間の事業者や金融機関による GX 投資を活発にする

フレームワークの中身

発行にあたって、国は「クライメート・トランジション・ボンド・フレームワーク」を策定・公表しています。国際的な基準にもとづき、次の項目が記載されています。

  • 発行体の移行戦略:日本政府としての目標、計画、施策
  • 調達資金の使途:資金を使う予定の分野
  • 調達資金の管理:示した使途に充てられているかの説明
  • レポーティング:資金の充当状況と、環境改善などの効果(インパクト)の定期報告

資金の使い道の分類

フレームワークでは、資金の使い道が6つに分類されています。主な事業の例は次のとおりです。

  • エネルギー効率:省エネ機器の普及、省エネ住宅・建築物、省エネ性能の高い半導体や光電融合技術、蓄電池の製造工場への投資
  • 再生可能エネルギー:浮体式洋上風力、次世代型太陽電池(ペロブスカイト)
  • 低炭素・脱炭素エネルギー:次世代革新炉、ゼロエミッション火力、海底直流送電などの整備
  • クリーンな運輸:次世代自動車の導入支援、次世代航空機・ゼロエミッション船
  • 環境に配慮した生産技術・プロセス:水素還元製鉄などの革新技術、水素・アンモニアのサプライチェーン、カーボンリサイクル・CCS
  • 生物自然資源・サーキュラーエコノミー:農林漁業の脱炭素化、プラスチック・金属・SAF などの資源循環

これらは、GX 経済移行債による投資促進策の対象分野と重なっています。支援の考え方は、GX投資促進策の基本原則の解説で整理しています。

アジアでの重要性

資料は、アジアでのトランジションが特に重要だとしています。

  • アジアの排出量は世界全体の半分以上を占める
  • 東南アジアでは、2050年までに経済規模も電力需要も約3倍になるとの見通しがある
  • 欧州・アフリカと比べて、再エネの賦存量(使える量)が小さい
  • アジアでは、2050年までに累計40兆ドルともいわれる脱炭素投資の資金需要がある

そのため、すでにグリーンなものに限定するのではなく、各国の実情をふまえた段階的な移行を支えるトランジション・ファイナンスの活用が重要だとしています。

国際的な広がり

2026年8月の第17回 GX 実行会議の資料では、日本が発信してきたトランジション・ファイナンスの考え方が、国際的にも広まりつつあると報告されています。国際資本市場協会(ICMA、2025年11月)やローン市場協会(LMA、2025年10月)が新たなガイドラインなどを策定・公表し、英国(2026年3月にガイドライン案を公表)や韓国(2026年2月にガイドラインを策定)でも動きが出ています。GX 投資全体の進み具合は、GX投資の進捗の解説で紹介しています。

企業にとっての意味

ここからは GX LAB 編集部の見立てです。

トランジション・ファイナンスが広がると、今すぐ脱炭素化できない設備を持つ企業でも、移行の計画を示すことで資金を調達しやすくなる可能性があります。金融機関と話すときは、自社の削減目標と、そこに至るまでの段階的な計画を説明できるようにしておくことが大切です。

まとめ

  • トランジション・ファイナンスは、すぐに脱炭素化できない産業の段階的な移行を支える資金調達の考え方
  • 国は2024年2月から、世界初の国によるトランジション・ボンド「クライメート・トランジション利付国債」を発行している
  • 資金の使い道は、エネルギー効率、再エネ、脱炭素エネルギー、運輸、生産プロセス、資源循環などに分類される
  • アジアでの重要性が高く、日本の考え方は国際的なガイドラインにも広がりつつある

出典・参考

※ 本記事は編集部が投稿した当時の情報に基づきます。制度の内容は変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式ページをご確認ください。

よくある質問

Qトランジション・ファイナンスとは何ですか?
A

すぐには脱炭素化できない産業の、段階的な移行を支える資金調達の考え方です。高温の熱需要や製鉄の還元工程など、電化が難しい分野での大幅な削減や段階的な削減の取り組みも対象にします。

Qグリーン・ファイナンスとの違いは何ですか?
A

グリーン・ファイナンスは、すでにグリーンとされる事業への資金調達が中心です。トランジション・ファイナンスは、移行の途中にある事業や、段階的に排出を減らす取り組みも対象にする点が異なります。

Qクライメート・トランジション利付国債とは何ですか?
A

GX経済移行債の一部として、2024年2月から発行されている国のトランジション・ボンドです。国際標準への準拠について第三者評価機関の認証を得ており、世界初の国によるトランジション・ボンドとされています。

Share