排出量取引制度(GX-ETS)とは?2026年度に始まった義務化の仕組みと企業がすべきこと
GX推進法に基づく排出量取引制度(GX-ETS)が2026年度に始まりました。CO2の直接排出量が10万トン以上の企業に参加が義務づけられ、排出実績と同じ量の排出枠を保有することが求められます。対象、スケジュール、割当て、取引市場、不足したときの扱いまで、制度の全体像を整理しました。

目次
2026年度から、一定規模以上の CO2を排出する企業に、排出量取引制度への参加が義務づけられました。GX リーグで2023年度から試行してきた自主的な仕組みが、法律に基づく制度に変わったことになります。対象になる企業は限られますが、取引先や業界全体の動きを通じて、多くの企業に関わってくる制度です。この記事では、GX LAB 編集部が、経済産業省の資料をもとに、制度の全体像を整理します。
この記事でわかること
- 排出量取引制度(GX-ETS)とは何か
- 成長志向型カーボンプライシングの中での位置づけ
- 制度の対象になる企業
- 1年間の流れと、2026年度の特例
- 排出枠の割当ての考え方
- 排出枠の取引と、不足したときの扱い
- 企業がいまからできること
排出量取引制度(GX-ETS)とは
排出量取引制度は、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律(GX 推進法)に基づく制度です。2025年に GX 推進法が改正され、2026年度から、一定規模以上の CO2を排出する事業者の参加が義務になりました。
経済産業省のリーフレットでは、制度の骨格を次のように説明しています。
- 政府が、一定の基準のもとで、制度対象者からの届出をもとに、排出枠を無償で割り当てる
- 制度対象者は、毎年度の CO2の直接排出量(排出実績量)などを算定し、期限までに排出実績量と同じ量の排出枠を保有する
- 排出枠が足りない場合は、排出枠取引市場などで調達できる
排出枠は、CO2を1トン排出できる量を1単位とする「枠」です。割り当てられた枠より排出を減らせば枠が余り、売ることができます。反対に、排出が枠を上回れば、足りない分を買う必要があります。削減した企業が得をし、削減が遅れた企業が費用を負う仕組みにすることで、排出削減への投資を促すのがねらいです。
成長志向型カーボンプライシングの中での位置づけ
排出量取引制度は、国が進める「成長志向型カーボンプライシング構想」の柱の一つです。この構想は、GX 経済移行債を使った10年間で20兆円規模の先行投資支援と、カーボンプライシングを組み合わせて、10年間で150兆円を超える官民の GX 投資を実現しようとするものです。
- 排出量取引制度:2023年度から GX リーグで試行、2026年度から本格稼働
- 発電事業者への有償オークション:2033年度から導入
- 化石燃料賦課金:2028年度から導入
構想全体は、成長志向型カーボンプライシングの解説で取り上げています。
GX リーグからの段階的な発展
2023年度に始まった GX リーグでは、カーボンニュートラルに野心的に取り組む企業が、自主的に排出量取引を試行してきました。参加企業の排出量は、日本の温室効果ガス排出量の5割を超えます。参加・目標設定・目標達成のいずれも自主的だった試行の段階から、2026年度には、直接排出10万トン以上の事業者を対象に、政府が定める基準で割当量を算定し、排出実績と同量の排出枠の保有を義務づける段階に進みました。
経済産業省の資料では、前身の GX リーグは参加が任意だったのに対し、新しい制度は要件を満たす事業者に義務が課されるもので、要件を満たさない事業者が自主的に参加することは認められないとしています。
制度の対象になる企業
制度の対象は、CO2の直接排出量の直近3年度の平均(年度平均排出量)が10万トン以上の事業者です。
- 判定は事業者(法人)単位で、子会社や関連会社は別の事業者として判定する
- 対象になるのは、燃料の燃焼や製品の製造などで自ら直接排出する CO2(いわゆる Scope1)。購入した電気や熱の使用に伴う間接排出(Scope2)は含まない
- CO2以外の温室効果ガス(メタンなど)は対象外
- 一定以上の輸送能力を持つ事業者は、輸送事業に係る CO2の直接排出量も合算する
国は、事務局から対象者を指定・通知することはしないとしています。各事業者が毎年度、自ら対象になるかどうかを確かめる必要があります。産業構造審議会の小委員会の資料では、対象事業者は300〜400社程度、日本の温室効果ガス排出量の60%近くをカバーする見込みとされています。
判定の計算方法や、グループ会社と共同で届け出る仕組みは、排出量取引制度の対象企業の判定の解説で詳しく取り上げています。
1年間の流れ
制度の対象になった年度(制度対象年度)の手続きは、おおむね次の流れで進みます。2027年度以降の通常のスケジュールです。
- 年度平均排出量を算出し、対象になるかを判定する
- 4月1日から、その年度の排出実績量の算定を始める
- 一定の基準で「排出目標量等」を算定する(登録確認機関の確認が必要)
- 9月30日までに、年度平均排出量と排出目標量等を経済産業大臣に届け出る
- 9月30日までに、移行計画を提出する
- 11月末に、経済産業大臣から排出枠が無償で割り当てられる
- 翌年度の9月30日までに、排出実績量を報告する(登録確認機関の確認が必要)
- 翌年度の1月31日に、排出実績量と同じ量の排出枠を保有する。この量が口座から消される(償却)
連続して対象になる場合は、2年度分の手続きが同時に進むことになります。
2026年度の特例
制度初年度の2026年度に対象になった事業者には、特例のスケジュールが適用されます。2026年度に必要なのは、4月1日からの排出実績量の算定開始と、9月30日までの年度平均排出量などの届出、移行計画の提出です。排出目標量等の届出は2027年9月30日まで、排出枠の割当ては2027年11月末に後ろ倒しされています。
手続きの詳細や、運用システム「ERMS」、登録確認機関の選び方は、排出量取引制度の手続きとスケジュールの解説で取り上げています。
排出枠の割当ての考え方
排出枠は、業種の特性に応じて、次の2つの方式で無償割当てされます。
- ベンチマーク方式:エネルギー多消費分野などを中心に、製品の生産量あたりの排出原単位の基準(ベンチマーク)を業種ごとに定め、基準活動量に掛けて割当量を決める
- グランドファザリング方式:ベンチマークを定めるのが難しい分野で、過去の排出量(基準排出量)に一定の削減率を掛けて割当量を決める
基準となる期間は、原則として制度対象となる直前の3年度(2026年度から対象になる場合は2023〜2025年度)です。どちらの方式も、年度を追うごとに割当ての基準が厳しくなります。
さらに、制度開始前の削減努力(早期削減)、国際競争で生産が海外に移るおそれ(カーボンリーケージ)、GX 関連の研究開発投資、事業所の新設・廃止や生産量の大きな増減などに応じて、割当量が調整されます。
ベンチマーク・グランドファザリングの水準や勘案事項は、排出枠の割当て方式の解説から順に取り上げています。
排出枠の取引と、不足したときの扱い
排出枠取引市場
排出枠取引市場は、GX 推進法に基づいて GX 推進機構が設置・運営します。小委員会の中間整理(案)では、2027年度秋ごろの開設を予定しているとしています。制度対象者のほか、制度対象者の依頼で取引する事業者や、クレジットなどの取引の経験を持つ事業者の参加も認める方向です。
カーボン・クレジットの活用
排出実績量は、CO2の直接排出量に、J-クレジットの第三者への移転量を加え、J-クレジットや JCM クレジットを無効化した量を差し引いて求めます。クレジットは、排出枠と同じく義務を果たす手段として位置づけられていますが、使える量には実排出量の10%という上限が設けられます。
価格の上限と下限
政府は、排出枠の価格に上限と下限を設けます。価格の高騰などで義務の履行に支障が出ると大臣が告示した場合には、不足分に上限価格を掛けた額を支払えば、義務を果たしたものとみなされます。価格が一定期間以上、下限を下回って低迷する場合には、GX 推進機構を通じたリバースオークションで流通量を調整する仕組みです。
排出枠が足りなかったとき
期限までに排出枠が足りず償却できなかった場合は、不足分に上限価格と1.1を掛けた額を「未償却相当負担金」として納める必要があります。また、届出や報告の義務を果たさなかったり、虚偽の届出をしたりした場合は、50万円以下の罰金の対象になります。
取引市場やクレジット、負担金の詳細は、排出枠の取引市場と、不足したときの負担金の解説で取り上げています。
諸外国の制度との比較
排出量取引制度は、EU や英国、韓国、米国カリフォルニア州などで先に導入されています。小委員会の資料をもとに、日本の制度との違いを見ておきます。
- 対象の単位と規模:EU と英国は直接排出2.5万トン以上の「設備」、韓国は直接・間接排出の合計12.5万トン以上の「企業」が対象。日本は「事業者」単位で、直接排出10万トン以上
- クレジットの使用上限:EU は現在のフェーズで外部のクレジットを使えない。カリフォルニア州は2026年以降、償却量の6%、韓国は2021〜2025年に5%。日本は実排出量の10%
- 検証の水準:EU と韓国はすべての対象に、厳しい「合理的保証水準」の検証を求めている。日本は当初3年間は事業者全体への「限定的水準」の確認から始める
EU では、制度の初期に安価な外部クレジットが大量に使われ、排出枠が余る一因になったと指摘されています。日本の制度も、こうした先行例をふまえ、運用しながら段階的に厳しくしていく設計になっています。
移行計画の提出と公表
制度対象者は、毎年度、2030年度までの直接・間接排出量の目標や、設備投資計画、研究開発投資の状況などを記載した移行計画を提出します。移行計画は、経済産業大臣と事業所管大臣によって、一部の事項を除き個社ごとに公表されます。排出量取引制度は、枠の売り買いだけでなく、企業の脱炭素の計画を外から見えるようにする制度でもあります。
制度はこれからも見直される
小委員会の中間整理(案)は、制度の発展の方向性として、次のような点を挙げています。
- 2029年度以降、排出量の大きな事業所(年間100万トン以上を目安に検討)について、より厳しい水準の確認を求める
- CCS・CCU や森林、DACCS などの除去・吸収を、算定の対象に加えることを検討する
- ベンチマークや割当ての配慮措置を点検し、必要に応じて2031年度以降の割当て方法を見直す
- 制度開始前の削減努力の勘案や、上位と中位の差が大きい業種への配慮措置は、2031年度以降は適用しない
企業がいまからできること
ここからは GX LAB 編集部の見立てです。
対象になる企業は、毎年度の判定、排出量の算定体制、登録確認機関との契約、移行計画の作成と、継続的な社内体制が欠かせません。排出枠の価格の見通しは、設備投資の判断にも関わってきます。
一方、対象にならない企業にとっても、無関係ではありません。対象企業は移行計画で排出削減の目標や投資計画を公表するため、取引先にも削減の協力や排出量のデータを求める動きが広がると考えられます。また、J-クレジットは義務の履行に使えるため、削減の取り組みをクレジットにすることが、新しい収益の機会になる可能性もあります。
- 対象かもしれない企業:直近3年度の Scope1排出量を確かめ、算定と確認の体制を整える
- 対象外の企業:主要な取引先が対象かどうかを把握し、自社の排出量の見える化を進める
- いずれの企業も:省エネや燃料転換、再エネ導入など、排出を減らす投資の計画を立てる
まとめ
- 排出量取引制度(GX-ETS)は、GX 推進法に基づき2026年度に始まった制度で、CO2の直接排出量が10万トン以上の事業者に参加を義務づける
- 対象者は、排出実績量と同じ量の排出枠を、翌年度の1月31日に保有する
- 排出枠は、ベンチマークまたはグランドファザリングで無償割当てされ、さまざまな事情に応じて調整される
- 取引市場は2027年度秋ごろ開設予定。クレジットは実排出量の10%まで使える
- 不足した場合は、不足分×上限価格×1.1の未償却相当負担金がかかる
出典・参考
- 経済産業省「GX推進法に基づく排出量取引制度が開始します(リーフレット)」(2026年度版)
- 経済産業省「排出量取引制度 手続の全体像(セットアップマニュアル)」(2026年6月1日)
- 経済産業省「産業構造審議会 排出量取引制度小委員会 中間整理(案)」(2025年12月9日、資料3)
※ 本記事は編集部が投稿した当時の情報に基づきます。制度の内容は変更される場合があります。最新の情報は各省庁の公式ページをご確認ください。
よくある質問
Q排出量取引制度(GX-ETS)とは何ですか?
GX推進法に基づき2026年度に始まった制度です。CO2の直接排出量が一定規模以上の事業者に、政府が排出枠を無償で割り当て、事業者は毎年度の排出実績量と同じ量の排出枠を期限までに保有することが求められます。枠が足りなければ市場などで調達し、余れば売ることができます。
Qどんな企業が対象ですか?
CO2の直接排出量(Scope1)の直近3年度平均が10万トン以上の事業者です。判定は事業者単位で毎年度行い、国から対象者が指定・通知されることはありません。対象事業者は300〜400社程度、日本の温室効果ガス排出量の60%近くをカバーする見込みです。
Q排出枠が足りなかったらどうなりますか?
期限までに排出枠が足りず償却できなかった場合は、不足分に上限価格と1.1を掛けた額を未償却相当負担金として納める必要があります。また、届出や報告の義務を果たさなかった場合などは、50万円以下の罰金の対象になります。
Q対象外の企業にも関係がありますか?
対象企業は排出削減の目標や投資計画を移行計画で公表するため、取引先にも削減の協力や排出量のデータを求める動きが広がると考えられます。また、J-クレジットは義務の履行に使えるため、削減の取り組みをクレジットにすることが収益の機会になる可能性もあります。